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【毎週土曜21時放送中】
ーようこそ、World Music Barへ。ー
今夜もこの場所に足を運んでくださって、ありがとうございます。
お元気でしたか? 少しずつ夏の気配が色濃くなってきましたね。
夏が近づくと、ふと聴きたくなる曲があります。
それは、まるで“渚のカセット”みたいなものかもしれません。
好きな歌だけを詰めこんで、時間や場所を飛び越えて、あの日の風景をそのまま運んでくれる——そんな“記憶でできたミックステープ”。
今年2025年、TUBEはデビュー40周年を迎えました。
「夏といえばTUBE」と語られてきた彼らの音楽は、私たち一人ひとりの“夏の記憶”に寄り添いながら、今も静かに再生されています。
今夜はその“渚のカセット”のなかから、1990年の一曲「N・A・T・S・U」を手に取り、音に乗せて時間旅行へ——あの夏の匂いへ、戻りませんか。
1. 『N・A・T・S・U』という、夏のプロローグ
バンド自身の手から生まれた、陽射しと潮風のアルバム。
潮風が吹き抜けるようなイントロに背中を押されて、あの頃感じた、夏の香りに誘われます。
アルバム『N・A・T・S・U』/1990年は、TUBEが初めて“自分たちの言葉と音”だけで描いた季節の風景です。
Vo.前田亘輝さんが全作詞を担当、G.春畑道哉さんが(1曲を除き)全作曲を手がけたこの作品は、まさに「TUBEによるTUBEのための夏アルバム」と言えるでしょう。
それまでの作詞家・作曲家とのコラボレーションを離れ、自分たちの感性と表現力でまっすぐ“夏”に向き合った姿勢には、ひたむきさと夏を楽しむ気持ち・楽しませてくれる誘い(いざない)が込められています。
まぶしい陽射しの光の粒をすくうように描かれた歌詞、砂浜を駆け抜けるような旋律とパワフルなボーカル、そしてなにより、季節を超えて心に届く、夏色のTUBEサウンド――それらすべてが、このアルバムをただのシーズナル作品以上の存在にしています。
“夏はTUBE”というイメージが定着しつつあった当時、TUBEがこの作品で伝えたかったのは、“TUBEといえば夏”ではなく、“TUBEが描く夏”だったのではないかと思います。

2. 盤面に刻まれた1990年のサマー・ビート
1990年当時、日本の音楽市場はCDを中心としたメディア展開が加速し、CDはすでに日常に溶け込んだ存在となっていました。前年にはレコードの国内生産が終了し、全国にレンタルCDショップが広がるなど、音楽との接点はますます身近になっていました。
家庭ではミニコンポが当たり前のように置かれ、カーステレオやポータブルCDプレーヤーなどを通じて、リスナーはいつでもどこでも音楽を再生できるようになっていたのです。
そうした環境の中で、アーティストたちもCDというメディアを積極的に活用するようになりました。初回盤や限定パッケージには、特別な装丁やブックレット、ステッカーや写真集などが封入され、単なる音源ではない“作品”としての価値が高められていました。
CDを買うことそのものが、音楽ファンにとっての楽しみとなり、期待を込めてショップに足を運ぶ光景が日常的に見られた時代だったのです。
TUBEのアルバム『N・A・T・S・U』も、その時代のなかでリリースされた作品でした。
バンドメンバーによる作詞・作曲で完成されたこのアルバムは、初回限定盤にカラフルなケン・ドーンのバンダナが封入されるなど、楽曲以外の部分でも存在感を発揮していました。バンダナという形ある特典を通じて、リスナーは作品だけでなく、TUBEというアーティストとの距離感のような、特別な贈り物を手に入れた気持ちになったのではないでしょうか。
加えて、CDそのものにも、当時ならではの感覚が宿っていました。
ケースを開けて盤面に印刷されたアーティスト名やロゴ、曲目を目で追いながら、「この中にどんな音が詰まっているのだろう」と思いを巡らせる——そうしたひとときが、CDを聴く楽しみの一部になっていたのです。
『N・A・T・S・U』に収録された曲は、TUBEが積み重ねてきた“夏の音”を受け継ぎながらも、新たなアプローチが随所に感じられました。明るく勢いのあるナンバーだけでなく、どこか切なさや静けさを含んだ曲調も目立ち、単なる夏の演出にとどまらない、バンドとしての成熟を印象づける内容になっていたように思います。
音楽を「所有する」という感覚が、CDというメディアを通して日常に根づいていたあの時代。『N・A・T・S・U』という作品もまた、そんな背景の中で手に取られ、再生され、記憶に刻まれていった1枚だったのです。

3. 永遠の夏、そして40年の時間
TUBEがデビューしたのは1985年。以降、彼らは“夏”を象徴するバンドとして広く知られるようになりました。2025年6月でデビュー40周年を迎えたTUBEは、いまやJ-POPの中でも、最も長く「季節」と寄り添い続けたアーティストのひとつと言えるかもしれません。
ただ、TUBEが届けてきた“夏”は、単なるイメージ戦略や一過性のテーマではありませんでした。アルバムや楽曲ごとに描かれる夏は、その時代を生きる人々の気分や風景を映し出し、変化を重ねてきた存在だったのです。
1990年の『N・A・T・S・U』では、セルフコンポージングによる成熟したサウンドと、ビジュアル面を含めたアートディレクションで、新しい季節の空気を提示しました。それは、単なる“夏ソング”の一枚ではなく、リスナー自身の記憶や時間と結びつく「個人的な季節体験」として機能していたのではないでしょうか。
その後もTUBEは、時代のムードや社会の変化に合わせながら、“夏”というテーマに微細な表情を与え続けてきました。若さと勢いを象徴する90年代、震災や不況を背景に切なさがにじんだ2000年代、そしてコロナ禍で「会えない夏」すら歌に変えた2020年代——彼らの“夏”は、一貫してポジティブであろうとしながらも、常にその年ごとの空気を含んでいたように思います。
TUBEの「夏」は、40年かけて編まれた季節のアーカイブであり、聴く人の人生の一場面をそっと照らしてくれる音楽の記録でもあります。『N・A・T・S・U』という作品は、その中でも節目を告げた1枚として、今あらためて見直す価値があるのではないでしょうか。

4. おわりに
TUBEの音楽には、ただ季節を彩るだけではない、心に残る風景や感情があります。とくに90年代、FMラジオから新譜情報が流れてきたあの瞬間——情報をメモし、ジャケットのデザインに胸が高鳴り、初回盤の予約に走り、発売日を待ちわびる。そうした一連の“作品との出会い”の高揚感は、今も忘れられません。
CDショップで初回盤を手に取ったときの手触り、パッケージを開く瞬間のドキドキ、そしてTUBEらしいジャケットデザインの眩しさ。それらすべてが、ただの音楽体験を超えて、かけがえのない記憶として残っています。
『N・A・T・S・U』をはじめ、TUBEが届けてくれた数々の“夏”は、時代が変わっても、聴くたびにあの頃の空気や気持ちをよみがえらせてくれます。もし今も、あのワクワク感を味わえる場面があったなら——そう願いながら、私はこれからもTUBEの音楽と共に、季節を感じていきたいと思います。
そろそろ閉店のお時間となりました。
思い出の夏、まだ知らない夏、これから迎える夏——今年の夏は、どんな夏になるでしょうか。
どうぞまた次回のブログ、そして土曜夜のラジオもお楽しみに。
皆さまにとって、優しくあたたかな一週間となりますように。
Open the door to summer-and let your heart and body be free.

静かな夜のひととき、今夜また、音のそばで。
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