いらっしゃいませ。World Music Barへようこそ。
冷たい秋の雨、たまにはこんな夜も素敵ですね。どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
お客様には、長い間ずっと聴き続けていて、ある時ふとした人生の場面で、その曲や声、音に戻りたくなる、そんなアーティストや作品がありませんか?
私にとって、KIRINJIというバンドがそのような存在の一つです。
このアーティストの楽曲や詩は、いつも一人でじっくりと聴いていたい、この音に帰りたいと感じさせてくれます。そして、心に深く響きます。
上手な表現が出来ないのですが、「私も一人の人間である」と実感するのです。
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1996年に結成されたこのバンドは、堀込高樹さんと堀込泰行さんのご兄弟で結成されました。
KIRINJIの作品を聴いていらっしゃる方は恐らく同じ印象を持たれると思うのですが、KIRINJIのサウンドを”聴く時”、旋律や詩のもつ美しさや繊細さ、それぞれの曲がもつ世界観によっていつも感情を強く揺さぶられるのです。
一方、”演奏する時”は、複雑な音階とコード構成、奏法、テンポ、コーラスやストリングスの入れ方など、しっかり勉強する必要があります。
さて、数ある作品の中で、とりわけ私が必ず聴きたくなるナンバーを今夜はご紹介します。
2003年に発売されたスタジオアルバム「For Beautiful Human Life」から、『愛のCoda』です。作詞・作曲は、お兄様の堀越高樹さんです。
まずは歌詞を読み解いてゆきます。私なりの解釈です。聴かれる方の気持ちや状況によって曲の受け止め方は様々かと思いますので、あらかじめご了承ください。
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歌詞にあるWordを以下の要素に分類してみます。
色:「モノクローム」「銀」「赤」「青」「塗り絵」
季節:「春」「夏」「花びら」
天気:「雨」「雲」「陽射し」
時間:「宵」「夕陽」「星」
場所:「飛行場」「列車」「街」「窓(辺)」
対比や逆行:「雨↔傘を捨ててコートを脱ぐ」「灼け付く日差し↔雲や雨&ひるむ背中」「やわらかな心↔石に変えて」「モノクローム↔銀、赤&青」「静けさ↔飛行場&軋む列車、街」「無様な塗り絵↔花びらに染まる」「夜に沈む↔浅い夢」「美酒↔酔えないあなた」「帰りのチケットを破る↔(破ったから)行先も理由も持たない」「”孤独”↔”友”として(誰でもない)」
そして、Titleである『愛のCoda』を読み解きます。
“Coda”とは音楽では楽曲全体の曲を締めくくるためにつけられた部分のことを言います。
楽譜上では、曲の途中から別の場所へ移動する指示をします。つまり、”(from)Coda to Coda”となります。”To Coda”の部分は独立した楽節(章)となり、指示記号によってTo Codaの楽節へ導きます。曲を終わらせるための節です。
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この曲の主人公は”飛行場や列車や街”、”移りゆく季節”、”日常(朝~昼~夜)”など「動き続ける」世界の中に存在する自分という人間の日々の感情や生き方について、どこに行くのか、どうすれば良いのかと、やり場のない想いで溢れてゆきます(モノクローム)。
辿りつく場所(“Coda”=終章)を見つけたくて、「孤独」を”To Coda”としたのです。
本当は、答えなんてわからないのに(”途切れたフィルム”)。
この愛を終わらせたくないのに(”帰りのチケットを破る”)。
ずっと出口がわからないから、”飛行機や列車”のように、必ず終点がなければダメになってしまうかもしれない。自分なりのTo Codaをつくったのです。
もしかすると、「孤独」を”To Coda”としたのは新しいスタートラインに立つため、と考えても良いかもしれません。
楽曲を聴ききながらこの考察をしましたが、曲の世界に感情移入してしまい、涙があふれました。KIRINJIの紡ぐ詩や曲が私はとても好きです。
なんて素敵で切なくて、美しい作品なのだろうと改めて思います。それではお聴きください。
CodeはF#mです。IntroのKeyboard/Piano/Guitar~+Bass~+Drumへと続き、この曲の世界へと誘います。そしてAメロ→Bメロと続きますが、最高潮のサビの直前にもう一回曲調が変わります。Cメロなのかもしれませんが、個人的にはBメロと繋がりのある構成として、ここではBメロ+と呼ばせてください。このBメロ+では、詩の情景も主人公がキラキラしていた頃を一瞬だけ振り返る言葉で描かれています。
そして、サビ。ここで入るコーラスがとっても美しいですね。本当にドラマティックです。
“Uh-“と”Ah-”で変化をつけているところも個人的には好きな部分です。
そして、落ちサビが入り、ここから大サビへ入りOutroとなります。大サビのサウンドワークは美しく繊細な、川のような流れをつくっています。奏でる音階が聴く者の琴線に触れ、例えようのない感情へ導いてゆきます。
Live動画もYoutubeなどでご覧いただけると思いますので臨場感あふれるパフォーマンスを是非体感してみてください。
いかがでしたでしょうか?今回はとても深堀した内容となりましたが、KIRINJIの楽曲は一つ一つ奥が深く、心を引き付けるものが多いので、今後も様々な作品をご紹介させて頂ければと思います。また、私にとってもベースの目標曲となるテクニックがたくさんあるものばかりなので、一生懸命練習してバンドで演奏します。
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今日は10月最後の日。普通にカレンダー通り過ぎてゆくだけなのですが、それでも一人一人の生きる環境によって心の中で流れる時間のスピードは違うかもしれません。
そんな時は、帰りたい音、帰りたい曲、帰りたい声へ戻ってみてください。
そしてこのお店も、お客様にとってそんな場所でありたいと思っています。
今夜も、ご来店頂きましてありがとうございました。
(音声配信はこちら ~ on stand.fm “World Music Bar”)