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【毎週土曜21時放送中】
ーようこそ、World Music Barへ。ー
真夏の夜に浮かぶ大輪の花火、強く熱い陽射しのもと、全国各地で響くサマー・フェスティバルの鼓動。
喧騒と熱気が入り混じるこの季節、少し静かにクールダウンしたくなったら、当店の扉を開けてみてください。
今宵お届けするのは、**フランス映画音楽の巨匠、Michel Legrand(ミシェル・ルグラン)**の名曲群をベースに制作された、1978年の企画アルバム『Disco Magic Concorde』。
クラシックな映画音楽の旋律がディスコのグルーヴへと姿を変え、夏の夜をロマンティックに彩ります。
今夜は、フランスの香りをまとった甘くもシャープなディスコ・クラシックで、心ほどける夜のひとときをお届けします。

Michel Legrand(1932–2019)は、20世紀後半の音楽界において、映画音楽とポピュラー音楽の橋渡し役を果たしたフランスの作曲家・編曲家・ピアニストです。
彼の作品は、Jazz、Classic、Chanson、Popsといったジャンルを横断しつつ、いずれにも深く根ざした音楽的素養によって支えられています。
10歳でパリ国立高等音楽院に入学し、ピアノと作曲を学びました。在学中は、ただひたむきに音楽に情熱を燃やし、あらゆるレッスンに積極的に参加し、トランペットとトロンボーンも習得しました、音楽理論と和声学でそれぞれ首席で卒業しました。
その後、映画・テレビ音楽の作曲家として多くの映像作品に携わり、記憶に残る名曲の数々を作曲しました。
映画音楽では、フランス・ヌーヴェルバーグ(Nouvelle Vague)の名作、ジャック・ドゥミ監督の映画『シェルブールの雨傘 Les Parapluies de Cherbourg』(1964年)と『ロシュフォールの恋人たち Les Demoiselles de Rochefort』(1967年)の音楽を担当し、アカデミー賞にノミネートされました。
そして映画『華麗なる賭け The Thomas Crown Affair』(1968年)の主題歌「風のささやき The Windmills of Your Mind」で自身初の3部門受賞を果たしたのです。
Legrandの音楽は、巧みなオーケストレーション、流麗な転調、甘美かつダイナミックな旋律が特徴です。
映画の情感を音楽だけで語り、サウンドトラックを“一つの音楽作品として成立する芸術 “に昇華させました。
それらは単なるBGMではなく、映画の情感や場面転換を音楽で語る手段として機能していました。
彼の作品群は「映画音楽」という枠組みを超え、個人の感情や記憶に語りかける普遍的な力を持っているのです。
ジャズ・ミュージシャンとの共演も積極的に行い、トランペット奏者のマイルス・デイヴィス(Miles Davis)やテナー・サックス奏者のスタン・ゲッツ(Stan Getz)らとの作品を通じて、欧米ポピュラー音楽界にも大きな影響を及ぼしています。
彼が残した膨大な作品の数々は、いまなお映画音楽やJazz、Musicalなどの分野で新たな解釈やカバーを生み続けています。
Legrandの功績は、「聴く者にまっすぐに届き、心を揺さぶるメロディ」を追求し続けた点にあり、世代や国境を越えて愛される永遠の芸術遺産として語り継がれています。

2. 幻のLP ー 『Disco Magic Concorde』
1978年、ヨーロッパではディスコ・ムーブメントが絶頂期にありました。
Disques Festival レーベルは、自社の看板作曲家であるミシェル・ルグランの映画主題曲を、当時のクラブ—特にパリディスコフロア—向けに一挙に“ディスコ・メドレー”として再構築することで、新たな市場価値を生み出そうとしました。
本作、『Disco Magic Concorde』は、1978年にフランスのDisques Festivalレーベルからプロモーション用LPとしてリリースされました。
ミシェル・ルグラン自身のオリジナル楽曲をディスコ・メドレーとして再構築したもので、当時のディスコ市場を意識した実験的企画盤として制作されました。
ルグランの代表的な映画音楽を中心とした楽曲が収録されており、A面にはボーカル版とインスト版をつなげた連続メドレーが収められています。
ミシェル・ルグラン本人は作曲者としてのみクレジットされ、編曲・ディスコアレンジはフランスのアレンジャー、エルヴェ・ロワ(Hervé Roy)が担当しました。
プロデュースはPierre VassalとSurova、実制作(Réalisation)はDominique RousseauとYves Roseが手掛けており、ルグラン自身はアレンジやサウンド制作には直接関与していません。
タイトルナンバーでもある“Disco Magic Concorde” というタイトルは、当時フランスのシンボルであり未来感を象徴する超音速旅客機「コンコルド」を連想させ、モダンで先進的なイメージを強調。
オーケストラ質感を残しつつもシンセサイザーやエレクトロニックビートを大胆に導入しています。
A面は17の構成でまとめられた、彼の代表曲を連続メドレー(ヴォーカル&インスト両バージョン)で、B面は主題曲のインスト版を中心に構成し、10分前後の長尺ダンスチューンとして仕上げています。
CD化も実現しておらず、現在では日本のコレクターの間で希少盤として知られています。
今日では1970年代ディスコのビートとルグランのシネマティックな旋律が融合したユニークな一枚として再評価され、国内外のディスコ愛好家や映画音楽ファンの間でカルト的な人気を博しています。
~ 収録曲一覧 ~
曲名 | 出典作品(映画/番組) | 発表年 |
---|---|---|
What Are You Doing the Rest of Your Life? | 映画『ハッピーエンディング』 | 1972 |
You Must Believe In Spring (La Chanson De Maxence) | 映画『ロシュフォールの恋人たち』(Les Demoiselles de Rochefort) | 1967 |
Once Upon Summertime (La Valse Des Lilas) | 映画『シェルブールの雨傘』(Les Parapluies de Cherbourg) | 1964 |
I Will Wait For You (Je T’attendrai) | 映画『シェルブールの雨傘』(Les Parapluies de Cherbourg) | 1964 |
The Windmills Of Your Mind (Les Moulins De Mon Coeur) | 映画『華麗なる賭け』(The Thomas Crown Affair) | 1968 |
Sweet Gingerbread Man (Goût De Soleil) | 映画『The Magic Garden of Stanley Sweetheart』 | 1970 |
The Summer Knows | 映画『おもいでの夏』(Summer of ’42) | 1971 |
A Pair Of Twins (La Chanson Des Jumelles) | 映画『ロシュフォールの恋人たち』(Les Demoiselles de Rochefort) | 1967 |
Pieces Of Dreams | 映画『美しき愛のかけら』(Piece of Dreams) | 1970 |
I Will Say Goodbye (Je Vivrai Sans Toi) | 映画『華麗なる賭け』(The Thomas Crown Affair) | 1968 |
Watch What Happens (Le Récit De Cassard) | 映画『シェルブールの雨傘』(Les Parapluies de Cherbourg) | 1964 |

3. 映画音楽からDisco Musicへ
Disco Magic Concordeの一番の特徴は、映画音楽として親しまれてきた名曲を、ディスコの世界へと大胆にアレンジしている点です。ミシェル・ルグランが手がけた曲は、もともと映画の中で心の動きや物語に寄り添うように作られていて、感情の細やかさや雰囲気を伝えることに重きを置いていました。
それらの楽曲が、エルヴェ・ロワの手によって、テンポのあるビートやグルーヴ感を加えたディスコ仕様に生まれ変わります。
原曲の美しさを残しながらも、よりダンサブルなリズムにすることで、まるでクラブで流れているようなノリの良い仕上がりになっているのです。
こうした編曲によって、音楽は「物語を語るもの」から「体で感じるもの」へと役割が変わっているといえます。
映画の記憶や雰囲気が少しずつリズムの中に溶け込んでいき、聴き手は感情をじっくり味わうというより、音にすぐ反応するような聴き方に変化していくのです。
その結果、Disco Magic Concordeは、ただのリミックスというよりも、
映画音楽をDisco Musicという角度から再発見するアルバム
になっています。
当時の時代背景や音楽の流行が、この挑戦を後押ししていたこともあり、ジャンルを超えたユニークな作品として、今改めて見直す価値があると言えるでしょう。
4. おわりに
ミシェル・ルグランの楽曲に触れていると、やはりフランス映画の魅力というのは、この作曲家を抜きにして語ることはできないと感じます。
物語の陰影、登場人物の表情、街の空気──彼の音楽が加わることで、それらすべてが一段と深く、鮮やかに浮かび上がってくるのです。
私は「Disco Magic Concorde」を初めて聴いた瞬間、その洗練されたサウンドと美しい展開に心を奪われました。
そして原曲に触れたときも、映画のドラマのシナリオを彷彿とさせるような感情の高まりや切なさを感じました。
ディスコ版とは異なる雰囲気を持ちながらも、原曲もまた大変美しく、深く印象に残る作品ばかりなのです。
今回取り上げた「Disco Magic Concorde」では、クラブ仕様のアレンジが施され、原曲の印象とはずいぶん雰囲気が変わっています。それでも、曲に込められた情感や品格は変わらず、むしろ新しい聴き方に開かれているようにも感じました。
やはり素晴らしい音楽というのは、どんな形に姿を変えても、本質が揺らがないものなのだと思います。
いかがでしたか。週のはじまり、夏の夜のひととき、フランス音楽の旅へ。
映画から飛び出したようなノスタルジックな旋律に包まれながら、心も身体もやさしくほぐれていく──そんな時間になっていたら嬉しいです。
明日からまた、それぞれの物語が始まります。
その最初のページに、音楽の余韻を添えて。
次回も、心に残る音の風景をお届けしていきます。今夜も、ご一緒くださりありがとうございました。
La vie n’est pas si mal, n’oublie pas ton sourire.
(人生はそう悪いものじゃない、笑顔を忘れないで。)

静かな夜のひととき、今夜また、音のそばで。